「Dona nobis」について
今日の練習で、「このミサ曲は珍しく、最後まで幸せじゃない。」といったことを先生がおっしゃっていました。
確かに「Agnus Dei」の後はどんなミサも大抵、明るく穏やかな調子になっていくものですが、この曲は「Dona nobis」を分けて作曲しているにも関わらず、わざわざ「Dona nobis」の中に「Agnus Dei」のフレーズを挟んだりして、なんだか「いい方向に行けそうで、行けない……」みたいな感じになっていますね。
先生曰く「シューベルトはあまり幸せな人生を送っていなかった。それが反映されているのでは」とのこと。
ちなみに「Dona nobis pacem」は「私たちに平安を与えてください」という意味。
僕の中の「Dona nobis」イメージも「ほら、こんな感じの穏やかで明るい未来を、私たちに約束してほしいんです。」とでも言うかのような、優しく穏やかなフレーズ、といった感じ。「Agnus Dei」で、強く、切実な願いを訴えた分、こっちは穏やかさがより印象的になります。
しかしこのミサは違う。「Dona nobis」に入っても「Agnus Dei」で訴えた、救済への渇望がありありと残っている。
とはいえ、歌詞は「私たちに平安を与えてください」という、「私たちを憐れんでください」とは明らかにテンションの違うものです。
矛盾しているようですが、シューベルトの意を酌んで穏やかになり過ぎず、且つシリアスなままでなく最後の曲として「救済」の片鱗が見えるような穏やかな歌い方ができたら、きっと、最高の演奏になるんでしょうね。